小笠原に到着して8日が経過した。
明日のおがさわら丸に乗船し、東京へ帰る。
これまで海に行ってシュノーケリングをしたり、山に登って絶景を楽しんだり、色んな場所で面白い写真を撮ったり、一日もゆっくりする時間がないほどに充実していた。
そんな充実した毎日の中、今考えてみれば滞在期間中に他の旅行者や移住者、現地で生まれ育った方々と沢山出会うことが出来たなぁと思う。
新たな出会いが増える中で、僕が驚いたのは何と言っても小笠原のリピーターが多いこと。
父島で宿泊していた小笠原ユースホステルには、それこそ長期の間ヘルパーとして働く若者たちが沢山いた。
やはり多くの人が一度観光で小笠原を訪れ、そして数年後に再訪している。
なかには小笠原で出会い、お互いの人生を共に歩むことを決めたカップルもいる。
どうしてこんなにも小笠原という場所は人を集めるのか。
船で片道25時間半の道のり、長期休暇がなかなか取れない今の日本社会において、何度も小笠原に足を運びたくなるその魅力の根源は一体何なのだろう。
旅をしながら僕はずっとそのことを考えていた。
小笠原で経験できるアクティビティは沢山ある。
イルカと一緒に泳いで遊ぶことが出来るドルフィンスイム
目を覆うほどの魚の群れに出会えるスキューバダイビング
小笠原にしか生息しない固有種を観察しながら山や森を歩くツアー
満点の星空を眺めるスターウォッチング
夜行性の動物たちに会えるナイトツアー
どのアクティビティも心躍る。ワクワクが止まらない。
確かにどれも魅力的で小笠原以外では経験出来ないことが多いと思う。
一度目の小笠原は上記にあるようなアクティビティに参加したくて来る人がほとんどだろう。
ただリピーターになる理由はそれだけではない何かが必ずあるはずだ。
僕は島に来てからずっとそう思っていた。
ある日の夜のこと。
先日柔道の練習を見学させてくれたゆきちゃんが島に住む同んなじ年の子の集まりに僕を誘ってくれた。
集まったメンバーはみな島に来て色んな仕事をしている。
海ガイドや教師、カフェ店員や居酒屋店員。
島に来た理由は人それぞれだけど、今現在小笠原父島という生活空間をみんなでシェアしている。
ここにいる全員、同んなじ家に住んでいるいわばシェアメイト。
ゆきちゃんが誘ってくれたメンバーと飲んでいて感じたこと。
それは僕が住んでいる横浜のシェアハウスとやっていることはほとんど変わらないということ。
横浜にあるアパートの敷地内が小笠原諸島のとある島に変わっただけだ。
それぞれが自分の仕事を終え、大村海岸という共有ラウンジに集まり、満点の星空が浮かぶ海岸でご飯を食べ、そして乾杯をする。
みんなが飲んでいる中に自分がいること。
その時はもちろん初対面の人がほとんどなんだけど、みんな気兼ねなく話をしてくれるしアットホームな雰囲気を作ってくれる。
その時に一緒にいたメンバーは島に住んでいる人、島に旅行に来た人、そんな括りは関係なく、僕たちを「この小笠原という場所、小笠原という家をシェアしているシェアメイト」として扱ってくれたそんな気がした。
そしてそれがとても嬉しかった。
これがリピーターを生み出す一番の理由かもしれない。
そのとき僕はそう思った。
考えてみれば、おがさわら丸が東京からお客を乗せて父島に到着し、次また父島から東京に戻るまでどれだけ短い間でも2泊は必要だ。
2泊もすれば小さい街だ、毎日顔を合わせる人が出来て顔見知りも数人は出来るだろう。
シェアハウスも同んなじ。
毎日顔を合わせる人がいて、一緒にご飯を食べ、日々の生活の話を語り合いながらお酒を酌み交わす。
一度島に訪れた旅行者は、みんないつの間にか自分の家にいるような感覚になるのだと思う。
実際、今の自分がそうだ。
島の人たちの温かさに触れ、自分の家に住んでるように居心地が最高に良くて、いつまでもいられるような気がしてくる。
いつしかここから離れたくないなぁと。
自然とそう思うようになるのだろう。
父島に来て4日目。
おがさわら丸が東京に向けて出航するのを見送り船に乗って見送った。
見送り船の上から沢山の旅行者を乗せたおがさわら丸に向けて大きく手を振り、
誰かに向かって大きな声で「ありがとうございました!!」と叫ぶ若者の姿がとても印象的だった。
島に住むその若者が何に対して感謝の気持ちを述べたのか、その真意はわからないけれど彼の本気さが伝わって来て何だか泣けた
。
彼がその時想いを伝えた人たちと彼が今回一緒に過ごした時間はたった数日かもしれない。
でもその数日がその人の運命、その人の行き先を変えることだってあるのだ。
そして小笠原には人の今後を変えることが出来る、そんな力があるような気がした。
見送り船から東京へ向かうおがさわら丸に乗る人たちを見た。
みな満足そうな素晴らしい笑顔をしている。
そして大きく手を振りながら
「また来るよーーー」
東京に戻ればまた慌ただしい毎日が始まる。
今度の長期休暇はいつになるだろう。
何年後になるか分からないけれど、またこの家に帰って来よう。
そこで待っててくれる人がいる。
島全体が一つのシェアハウス。
一度小笠原に訪れた人たちは、きっと二度目からは「ただいまー!」と心のどこかで叫んでいるに違いない。
果たして僕が「ただいまー!」と叫ぶのはいつになるのか。
島のみんながずっと待ってくれていると信じて、明日帰路につこう。
2014.07.22
ライター 田知本直広(たっち)